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東京高等裁判所 昭和32年(ネ)1534号 判決

控訴人 金沢永吉郎

被控訴人 国

訴訟代理人 家弓吉巳 外二名

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は「原判決を取消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とする」との判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張は、被控訴人において「控訴人と千代田電工株式会社の代表取締役大賀川永三郎とは義兄弟の仲である」との主張を「控訴人は右大賀川永三郎の実弟である」と訂正し、また控訴人において次の通り主張した外は原判決の事実摘示の通りであるからこれを引用する。

(控訴人の主張)

被控訴人主張事実のうち、干代田電工株式会社が被控訴人主張の日にその主張の建物所有権を控訴人に対する債務の代物弁済として控訴人に譲渡し、被控訴人主張の日にその主張のような所有権移転登記をしたこと、控訴人は右会社の設立当時より昭和二七年一一月三〇日まで右会社の代表取締役、昭和二八年一月一五日から同年三月二七日までその取締役をしていたものであり、右会社の代表取締役大賀川永三郎は控訴人の実兄であることはいずれもこれを認める。しかし控訴人が詐害の情を知つていたとの被控訴人主張事実はこれを否認する。その余の点は知らない。控訴人は右会社から既存債務の弁済のため被控訴人主張建物の代物弁済を受けただけであつて、被控訴人主張のような詐害の事実は全くこれを知らなかつたものである。

証拠関係〈省略〉

理由

千代田電工株式会社が昭和三一年二月二〇日被控訴人主張の建物二棟(原判決添付物件目録記載のもの)の所有権を控訴人に対する債務の代物弁済として控訴人に譲渡し、同年五月二十四日売買名義を以てその所有権移転登記(東京法務局北出張所同日受付第一一、九七七号)をしたこと、控訴人は右会社の設立(昭和二四年四月一五日)当時より昭和二七年一一月三〇日まで右会社の代表取締役をしていた者であり、また昭和二八年一月一五日から同年三月二七日まではその取締役をしていたものであつて、右建物の所有権移転当時における同会社の代表取締役大賀川永三郎は控訴人の実兄に当ることはいずれも当事者間に争いがない。

そして成立に争いのない甲第一号証、第二号証の一、二、第四ないし第七号証に当審証人大賀川永三郎の証言を綜合すれば、右会社は前記建物所有権が控訴人に移転せられた昭和三一年二月二〇日の現在において、被控訴人に対し、原判決添付別表記載の通りの源泉徴収所得税及び物品税等合計五、一三二、二一一円の滞納金債務を負担し、本件建物以外の会社財産は概ね右滞納税金債務のため差押えられていたものであり、右会社においては、本件建物もまた当然税金債務のため差押を受けているものとのみ考えていたものであるが、昭和三一年二月に至つて、何故か、右建物が、まだ差押を受けていないことが分つたこと、当時右会社は会社と前記のような関係にあつた控訴人から従業員の給料の支払や手形を落す等の用途のため時借を受けて負担していた約金五〇万円の債務があつたので、右差押洩れの建物をその代物弁済として控訴人の所有に移すこととし、右建物が滞納税金による差押洩れのものであることをも告げて、この旨控訴人に申出でた結果、前記のような代物弁済及び所有権移転登記となつたものであり、右当時において右会社は本件建物以外には殆んど資産はなく、その営業も休業状態であつたことが認められ、控訴本人の当審供述中右認定に反する部分は信用できず、他に右認定を左右すべき資料はない。

そして、右事実関係に前認定の控訴人と会社及び会社代表者との関係を併せ考えれば、会社の控訴人への右譲渡行為は正に右会社において、滞納税金による差押を免れんとして故意にその譲渡をしたものであり、その譲渡を受けた控訴人もまた、右事情は十分これを知りながらその譲渡を受けたものと認めるのが相当である。

そうすれば国税徴収法第一五条に基き右譲渡行為の取消を求め、なお右譲渡のためにせられた前記のような所有権移転登記の抹消登記手続を求める被控訴人の本訴請求は正当であつて、これを認容した原判決は相当であり、本件控訴は理由がない。

よつて控訴費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九五条を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 薄根正男 奥野利一 山下朝一)

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